雪のひとひら(SNOWFLAKE)
ポールギャリコ作 矢川澄子訳
一粒の雪(原文ではsnowflake(雪片)だが、「雪のひとひら」と訳す所に翻訳者のセンスが光っている)が生まれ、消えていくまでを描いたファンタジー小説。主人公は女性である。雨のしずくと出会い、子をなし、雨のしずくと別れ、一人きりになるまでが、豊かな自然描写とともに語られ、一人の女性の人生を垣間見せてくれる。私は何者なのか、誰が私を作ったのか、何のために生まれてきたのか、人が生きる中で出会う困難や喜び、あらゆる出来事が雪のひとひらという現象に仮託され、物語として表現されている。明確に示されてはいないが、創造主の存在が常に背後に感じられ、ひたむきに生きようとする雪のひとひらの姿は、人間のそれと何ら変わらない。
全編に渡り、大きなものに見守られているような安心感を覚えるのは、ギャリコの優しさのなせる業なのだろうか。矢川澄子の翻訳も素晴らしい。久しぶりに再読し、ほんのり温かい気持ちになった。
2021年5月31日
5月 31st, 2021 in