異邦人(L’ETRANGER)
カミュ作 窪田啓作訳
コロナ禍もあり、数年前からカミュの「ペスト」が改めて注目されているが、私にとってカミュとカフカは、小説の面白さ、奥深さを初めて教えてくれた大切な作家である。小学校六年生の時にカミュの「異邦人」とカフカの「変身」を新潮文庫で読んで以来、実に数十年ぶりに再読した。当時理解できなかったムルソーの理不尽とも言える行動の数々に衝撃を受けはしたものの、別の視点から読み解くことで、より深くムルソーの心理を理解できるようになった。ムルソーは決して抑圧的でも、刹那的でもなく、限りなく理性的であり、彼の内部で論理を展開させるあまり、他者には冷たく、非人間的に感じられてしまうのではないだろうか。この本のクライマックスは、衝撃的な最後ではなく、むしろ神父との会話にあるように思われるが、読者によって様々な読み方ができる、素晴らしい小説だと思う。
交通事故により46歳にして不慮の死を遂げたカミュであるが、残された作品は今読んでも新しい読者を引き寄せるだけの魅力に富んでいる。私が口に出さなくても、1963年発行の小説が未だに出版され続けていることこそ、現代でもカミュが広く受け入れられていることの何よりの証拠かもしれない。
2021年4月30日
4月 30th, 2021 in